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高知地方裁判所 昭和49年(行ウ)7号 判決

原告 川西信子

原告 国沢博文

右原告ら訴訟代理人弁護士 梶原守光

右訴訟復代理人弁護士 土田嘉平

同 山下道子

被告 高知県知事 中内力

右訴訟代理人弁護士 安岡三四郎

右被告指定代理人 山本文雄

〈ほか三名〉

主文

一  原告らの第一次的請求を却下する。

二  被告が別紙物件目録(一)記載の土地につき昭和四九年四月二〇日付で訴外芝岡良明に対してなした廃道敷(不用物件)の使用承諾処分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  第一次的請求の趣旨

(一) 被告が別紙物件目録(一)記載の土地につき昭和四九年四月二〇日付で訴外芝岡良明に対してなした公衆用道路の占用許可処分を取り消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  第二次的請求の趣旨

主文と同旨。

≪以下事実省略≫

理由

一  本案前の申立についての判断

1  本件処分の内容

(一)  行政処分取消訴訟では、当該取消訴訟の対象たる行政処分の存在が訴訟要件であるところ、本件全証拠によっても、原告らが第一次的に主張する道路法三二条の道路の占用許可処分のあったことを認めることができないから、原告らの第一次的請求は、その対象を欠き、不適法であり却下する。

(二)  かえって≪証拠省略≫によれば次の事実が認められる。

旧県道清水宿毛線の道路敷地であった本件土地は、昭和四四年一二月四日から一般国道三二一号線に昇格、同四五年四月一日から供用開始された。その後、士佐清水市三崎字大馬目五〇四五番一地先から同所字給地谷三七〇一番一地先に至る区間において、高知県起業二・三・五清水宿毛線都市計画街路事業によりバイパス(新道)が新設され、道路法一八条にもとづき昭和四八年八月二四日付(高知県告示三九五号及び三九六号)で一般国道三二一号線として区域変更及び供用開始された。右処分によって従前供用されていた本件土地の属する旧国道の区間(旧道)は道路の区域から除外され、道路法九二条にいう不用物件(廃道敷)となったが、従前の管理者である被告は、同条の規定にもとづき引き続き政令で定められた八か月間管理しなければならないことになった。被告は右管理の一態様として、昭和四九年四月二〇日、芝岡に本件土地の使用承諾を与えたものである。

右事実よりすれば本件処分は、道路法九二条にいう不用物件についての管理行為の一態様(以下法九二条の処分という)ということができる。

(三)  原告らは道路の供用廃止には管理者の供用廃止の意思表示が必要であると主張するが、本件の場合には路線の変更であり、旧路線にかかる道路については自動的に供用が廃止されることになるから改めて供用の廃止をする必要はなく、原告らの主張は失当である。

(四)  以上、本件処分が道路法三二条の道路占用許可処分とはいえず、法九二条の処分であることは、前記認定事実より明らかであり、以下法九二条の処分として考察する。

2  行訴法三条二項該当性について

道路法九二条は、道路の供用の廃止又は道路の区域の変更があった場合当該道路を構成していて不用となった敷地につき、爾後の利用、その帰属関係の明確化等のため残務処理をなす必要があり、そのため一定期間公物管理権の対象として留保することを定めている。従って、その間右不用物件の管理者は、公共のために右不用物件の最終的利用関係を定める目的で管理しているものであり、その間になされた法九二条の処分は、行訴法三条二項にいう「処分」に該当し、取消訴訟の対象となりうる。

3  原告適格について

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる。

(1) 原告川西は別紙物件目録(二)記載の土地(別紙図面表示(1))上で観光客相手のレストランを経営しており(当事者間に争いのない事実)、原告国沢は同目録(三)記載の土地(別紙図面表示(2))を所有し将来右土地上に店舗を開設する予定である。

一方芝岡は、昭和四九年四月二〇日、被告から本件土地の一部につき使用承諾を得て店舗の増築(別紙図面赤線部分)をなした。

芝岡の右増築部分は旧道の入口のところにあり増築部分だけ旧道が狭くなっている。

(2) 右の芝岡の増築により原告らは次のような損害を蒙っている。

(イ) 原告川西方店舗は旧道側にだけ面しており、右芝岡の増築により高知県交通のバスターミナル(別紙図面表示(4))からの視界が悪くなり、又、旧道の入口にあたるところの道路幅が狭くなったこと等によって同店を利用する観光客が著しく減少した。

(ロ) また、原告国沢は別紙図面表示(2)の場所で近い将来店舗をかまえる予定であったが、原告川西と同様芝岡の前記増築により完全に高知県交通のバスターミナルからの視界がさえぎられ、店舗設置場所としての価値は失われ、重大な経済的打撃を蒙っている。

以上の事実が認められる。

(二)  抗告訴訟において取消訴訟を提起しうる者は必ずしも法的権利ないし利益を有する者に限られることはなく、事実上の利益を有するに過ぎない者であっても、その利益が一般抽象的なものでなくして具体的な個人的利益である場合には、その者に対して同処分の取消しを訴求する原告適格を認めるべきである。

そうだとすると、前記認定事実によれば、本件において原告らは法九二条の処分により直接営業上重大な支障を蒙る者として本訴訟を提起しているのであるから、その取消しを求める原告適格がある。

二  本案についての判断

1  原告らは、道路が供用廃止により不用物件となり被告が道路法九二条により政令で定める期間右不用物件を管理していたとしても、その間は同法九二条二項、四条により私権の制限を受けているのであるから、被告が芝岡に対し独占的使用権を与えるのは違法であると主張する。

しかし道路法四条の趣旨は、私人に対し道路の公用を妨げるおそれのある私権の行使を制限するものであり、道路の管理者に対して管理権の行使を妨げているものではない。本件では前記認定(一1(2))のように管理権行使の一態様として芝岡に対し本件土地の使用承諾を与えたものであるから、原告らの主張は理由がない。

2  裁量権の濫用について

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると次の事実が認められる(いずれも後記認定に反する部分を除く)。

(1) 原告川西は、同人方に接した旧道が山中正義方住居(別紙図面表示(7))の西側を抜けて新道に通ずる産業用道路として残ることを被告に確かめ、別紙物件目録(二)記載の土地(別紙図面表示(1))を買い受け観光客相手のレストランを経営しようと計画し、昭和四八年二月一五日、右土地を買い受けた。

ところが、その直前の昭和四八年一月末頃、将来産業用道路となる予定の場所に田上貢方住居(別紙図面表示(6))が建ち始めたので、原告川西は旧道の管理者である被告に抗議したが、その際、被告が右田上方の西側に新道と直結する道路をつけるからと約束したので、やむをえずこれを了承した。

原告は、その後昭和四八年一二月、現在ある建物の建築を始め昭和四九年四月から営業を開始した。

(2) 昭和四九年二月頃、芝岡が産業用道路として残す予定となっていた本件土地上に増築工事を始めたので原告らが被告にそれを抗議したところ、その工事は一旦中止となった。

(3) 被告は、芝岡から前記都市計画街路事業による新道を作る際用地の提供を受けていたのでその代償として、また、芝岡方の西隣にある国沢酒店の店舗の一部(別紙図面表示(5)(イ))が旧道側に張り出したこと等の理由により、芝岡に対する本件土地の使用承諾を検討していた。

しかし、芝岡に対し右使用承諾を与えると原告らに不利益を与えることになるので、被告は、原告らに対し、芝岡に右の使用承諾を与えるに際しては原告らも含めて関係者の間で協議することを約束した。

ところが、被告は原告らと右の使用承諾について協議することもなく、昭和四九年四月二〇日、法九二条の処分をなし、芝岡は右処分にもとづいて同年七月頃、本件土地上に増築工事をした。

そのため原告らは前記認定事実(一3(一))の様な著しい損害を蒙っている。

(二)  右認定事実によれば、被告の法九二条による処分は、右処分による原告らの蒙る著しい損害を考慮せず(特に原告川西は、同人の店舗が旧道にのみ面しており、旧道が産業用道路として残ることを期待して新たに店舗を開設したものであり、その産業用道路の入口に位置する部分が狭くなるということは重大な損害である)、芝岡にのみ特別の利益を与えたものであるということができ、しかも、手続上も右処分につき重大な利害関係を有する原告らとの充分な協議も経ていないのであるから裁量権の濫用として取り消されるべきである。

(三)  被告は、都市計画法七四条の規定の趣旨にもとづき芝岡に対し本件土地につき法九二条の処分をしたのであって芝岡に対し特に著しい利益を与えたものではないと主張するが、都市計画法七四条は、都市計画事業の施行に必要な土地等を提供したため生活の基礎を失うこととなる者に対し土地のあっせんをする旨規定しており、本件全証拠によるもそのような事実を認めることはできないから、被告の右の主張は理由がない。

三  結論

以上、原告らの第一次的請求は不適法であるからこれを却下し、第二次的請求については理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村幸雄 裁判官 高橋水枝 豊永多門)

〈以下省略〉

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